株主への利益供与(会社法120条)無過失責任③

こんにちは。というより、こんばんはの時間になってしまいました。本日は株主への利益供与についてです。まずは条文から(端折ってますので注意)

株主等の権利の行使に関する利益供与

  • 株式会社は、何人に対しても、株主の権利(中略)の行使に関し、財産上の利益供与をしてはならない(120.1)
  • 1項に違反して、財産上の利益供与をしたときは、当該利益の供与を受けた者は、これを返還しなければならない(120.3)
  • 1項に違反して、財産上の利益供与をしたときは、当該利益供与をすることに関与した取締役は、当該会社に対して連帯して、供与した利益価額相当額を支払う義務を負う。但し、その者(本人を除いて)が、注意を怠らなかったことを証明したらこの限りではない(120.4)

会社法の条文は長いのでちょっと読みにくいですが、要するに、

  • 株主に利益供与をするな
  • 利益を受けた者は返還しろ
  • 張本人は無過失責任(サポートした奴は過失責任)

いままで書いてきた無過失責任をまとめてみます。ついでに総株主の同意による全部免除の可否も記載しておきます。

  • 現物出資が著しく不足した場合の当該発起人(不可能)
  • 会社と直接取引した当該取締役(可能)
  • 株主への利益供与した当該取締役(可能)

持分会社の競業・利益相反(会社法594条、595条)

おはようございます。前回は株式会社の取締役についての競業・利益相反でしたが、今回は持分会社を取り上げてみます。合同会社を設立するケースが増えているのもありますし、違いを念頭に書いてみます。まずは条文から

競業の禁止

  • 業務執行社員は、その本人以外の社員全員の承認を受けなければ次に掲げる行為をしてはならない(594.1)
    1. 自己又は第三者のために持分会社の事業の部類に属する取引をすること
    2. 同種の事業を目的とする会社の取締役などになること
  • 業務執行社員が前項規定に違反して、同項1号の行為をした場合、持分会社に生じた損害の額と推定(594.2)

利益相反取引の制限

  • 業務執行社員は次に掲げる場合には、その本人以外の社員の過半数の承認を受けねばならない(595.1)
    1. 業務執行社員が自己又は第三者のために持分会社と取引をする
    2. 持分会社が業務執行社員の債務を保証、その他利益相反取引をする

取締役との違い

持分会社において競業は社員全員、利益相反の場合は社員の過半数と書かれており、会社法は競業の方が罪が重いという考えを持っている印象を受けます。

一方、株式会社はどうでしょうか?基本的に取締役会設置会社なら取締役の決議、非設置会社なら株主総会の決議なのでどちらも同じです。ただし、株式会社の場合は本人なら無過失責任という条文(428)がありますので、もしかしたら会社法は直接取引の方が罪が重いという考えを持っているのではないでしょうか。

利益相反した場合の違反の効果

ところで595条には違反した場合について明文規定がありません。実務上は判例などによることになると思いますが、試験では出ないはず(出せないと思う)です。

試験で注意するポイントとしては、

  • 株式会社と違い、持分会社の場合は競業の方が要件が厳しい
  • 但し、持分会社の場合は定款の別段の定めができるので注意

取締役の責任(会社法423条)無過失責任②

おはようございます。本日は取締役の責任についてです。条文では役員等の株式会社に対する損害賠償責任(423)に書かれております。

  • 役員等は任務を怠ったときは、生じた損害の賠償責任がある(423.1)
  • 取締役又は執行役が競業取引の規定違反して競業取引したときは、その取引で利益を得た奴の利益額を損害額と推定する(423.2)
  • 自己取引・利益相反取引によって損害が生じた場合、次の者に任務懈怠責任が発生する(423.3)
    1. 取締役又は執行役(本人)
    2. 取引を決定した取締役又は執行役(アシストした奴)
    3. 取締役会で賛成した奴(指名委員会等設置会社では取締役が自己・利益相反取引した場合)
  • 自己取引・利益相反取引の場合、取締役(監査等委員ではない通常の取締役)が監査等委員会の承認を受けたときには前項は適用しない(423.4)

競業取引と利益相反取引の違いですが、2項には「規定違反して」の文言があるので、競業取引についてはきちんと承認を得ていれば大丈夫ということになります。

利益相反取引にはきちんと承認を得ていたとしても任務懈怠推定が働きます。つまり損が発生したら賠償責任があるということです。ここで重要なのは、あくまでも「推定が働く」だけなので、取締役側で反証できればセーフということになります。(過失責任)

自己取引した奴の責任(無過失責任)

ただし例外があり、自己取引した本人は無過失責任を負わされます(428)

監査等委員会設置会社の例外

さて4項で監査等委員会の話が出てきます。監査等委員会の承認があれば任務懈怠推定が働かず、損が発生しても賠償責任がないということになり、責任追及したい側が取締役の過失を証明する必要があるわけです。ここで2点注意するべきポイントがあります。

  • 監査等委員会の承認を得ていたとしても、取締役会の承認は必要
  • 自己取引した奴の無過失責任はそのまま

指名委員会等設置会社の例外

3項3号に怪しい例外規定が書かれています。取締役が会社と自己取引・利益相反取引をした場合、取締役会で賛成した取締役が対象になっています。執行役が自己取引・利益相反取引をやった場合に漫然と取締役会で賛成した奴は対象外ということになります。

試験で注意するポイントは、

  • 競業なのか利益相反なのか、利益相反の場合、本人なら無過失責任
  • 監査等委員会設置会社の例外として、監査等委員会の承認を得れば任務懈怠推定がなくなるが、取締役会の承認は必要
  • 指名委員会等設置会社の例外

また実際の業務としては、上記のような任務懈怠の推定がなくなりますよ、というのは顧客にとって嬉しいことだと思います。会社設立の定款作成業務に携わるなら顧客に伝えておくべきポイントかもしれません。

このような政策的なアメのせいかどうか分かりませんが、実際に監査等委員会設置会社は増加しているようです。もちろんアメだけではなくて、たとえば任期が短いなどムチもありますのでご注意。

一時代表取締役と代行者(会社法351条、352条)

おはようございます。本日は代表取締役が欠けた場合についてです。まずは条文から(端折っていますので注意)代表取締役の権利義務について書かれた箇所にあります。

一時代表取締役(仮代表取締役)

  • 代表取締役が欠けた場合、員数が欠けた場合、次の代表取締役が就任するまで権利義務を有する(351.1)
  • 代表取締役が欠けた場合、裁判所は利害関係人の申立てにより、一時代表取締役を選任できる(351.2)。登記は嘱託される(937.1.2.イ)

それでは代行者についてはどうでしょうか?

職務代行者

  • 民事保全法56条に規定する仮処分命令により選任された取締役又は代表取締役の職務代行者は、常務に属しない行為をするには裁判所の許可がいる(352.1)

ここから2つのことが読み取れます。

  • 職務代行者は仮処分命令で選任される。登記は嘱託される(民事保全法56条)
  • 常務以外の行為をするには許可がいる

一時代表取締役の場合、その代表取締役は権利義務を承継している状況です。本来取締役会などで新たに代表取締役を選任しなければならないのですが、それが行われていない場合に利害人の申立てで裁判所が選任します。

一方、代行者については、代表取締役が仮処分で職務執行停止された場合の話です。つまり、悪いことをした奴が職務停止されたので、常務(定時株主総会招集とか)を遂行する奴が必要という状況になっているということですね。

一時取締役と代行者の相違点をまとめてみます。

一時取締役

  • 権利義務承継中に利害関係人の申立てで選任
  • 登記は嘱託される
  • 職務執行制限なし
  • 後任が選任されたら役目終了

代行者

  • 仮処分で職務執行停止中に仮処分命令で選任
  • 登記は嘱託される
  • 常務に関する執行のみ可能(それ以外は裁判所の許可必要)
  • 後任が選任されても優先される

試験で注意すべきは、「一時代表取締役」と「代行者」の見分けです。わざと間違えやすくしている節が見受けられます。「一時」ではなく「仮」と書かれていたりする場合があり、「代行者」と勘違いしてしまいます。特に「代行者」は「仮」処分命令で選任されますので間違わないように注意してください。

株式引受けの無効、取消し制限について

おはようございます。本日は株式の引受け無効と取消し制限についてです。まずは条文(かなり端折ってますので注意してください)

株式の引受けが想定される場面としては、設立時及び募集株式の発行の場面があります。

設立時(発起人)

  • 設立時発行株式の引受けにかかる意思表示について、民法93条但し書き(心裡留保)、94条1項(虚偽表示無効)は適用しない(51.1)
  • 発起人は、成立後は錯誤を理由として引受け無効を主張できない、また詐欺強迫を理由として取消しできない(51.2)

設立時募集株式の引受人については別の所に条文があります。

  • 設立時募集株式の引受けにかかる意思表示について、民法93条但し書き(心裡留保)、94条1項(虚偽表示無効)は適用しない(102.5)
  • 設立時募集株式の引受人は、成立後又は創立総会等で議決権を行使した後は錯誤無効を主張できない、また詐欺強迫を理由として取消しできない(102.6)

上記が会社設立時に関するものでしたが、実際に会社が軌道に乗って募集株式の発行をする状況になるとどうでしょうか?

  • 募集株式の引受の申込みにかかる意思表示について、民法93条但し書き(心裡留保)、94条1項(虚偽表示無効)は適用しない(211.1)
  • 募集株式の引受人は株主になった日から1年を経過した後、または権利行使した後は錯誤無効を主張できない、また詐欺強迫を理由として取消しできない(211.2)

ここで民法の意思表示のところではおなじみの制限行為能力というのがでてきていないことに気付くと思います。つまり制限行為能力による主張は可能であるということです。

試験に出されそうなポイントは3点あります。

  • 会社設立時は1年という猶予がない
  • 錯誤と詐欺強迫のみ不適用条件があり(すべての条文で心裡留保、虚偽表示は一律不適用)、しかも条件が微妙に違う
  • 制限行為能力は適用

特に2番目要注意です。

財産価額填補責任(会社法52条)無過失責任①

おはようございます。本日は取締役などの責任についてです。条文のいろいろなところにちりばめられているので、ここでは無過失責任に絞ってまとめてみます。まずは財産価額填補責任についてです。(条文はかなり端折ってます)

財産価額填補責任

  • 現物出資などの価額が著しく不足するときは、発起人及び設立時取締役は連帯して当該不足額を支払う義務を負う(52.1)
  • 本人以外について、調査を経ていた場合は負わない(52.2.1)
  • 本人以外について、無過失を証明したら負わない(52.2.2)

募集設立の場合の発起人の責任

  • 52.2.2が準用されていない(103.1)

まとめてみます。

現物出資者、財産引受の譲渡し人(つまり本人)

  • 常に責任を負う

それ以外の発起人、設立時取締役について

  • 発起・募集設立の場合、調査を経ていたら責任を負わない(52.2.1)
  • 発起設立の場合、無過失を証明できたら責任を負わない(52.2.2)
  • 募集設立の場合、無過失責任(103.1)

試験対策としては発起設立・募集設立それぞれの例外を押さえておくとよいと思います。

発起設立

  • 基本過失責任
  • 例外として本人の場合

募集設立

  • 基本無過失責任
  • 例外として、本人以外について調査を経た場合

これ以外にも無過失責任がありますので、追ってまとめていこうと思います。

取締役の報告義務(会社法357条)

おはようございます。本日も会社法です。357条の取締役の報告義務についてです。まずは条文から(条文通りだと長いので要約してますので、詳細は条文を確認してください)

  • 取締役は、著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときは、株主(監査役があれば監査役)に報告しなければならない。(357.1)
  • 監査役会設置会社の場合、監査役会と読み替える(357.2)
  • 監査等委員会設置会社の場合、監査等委員会に読み替える(357.3)

ここで監査等委員会が出てきました。それでは指名委員会等設置会社(以下、委員会会社)ではどうなるのでしょうか。

  • 執行役は、著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときは監査委員に報告しなければならない(419.1)
  • 357条の規定(報告義務)は、指名委員会等設置会社については、適用しない(419.3)

執行役が主語になっていますね。しかも3項で357条の規定は適用しないとなってます。つまり取締役は主語にはならないということです。


取締役Aが著しい損害を発見したとして、誰に報告すればいいのかまとめてみます。

一般株式会社と監査等委員会設置会社の場合

  • 株主(監査役が置かれていないとき)
  • 監査役
  • 監査役会があれば監査役会(個人ではない)
  • 監査等委員会(個人ではない)

委員会会社の場合(取締役Aを執行役Aと読み替える)

  • 監査委員(個人です)

実際に会社設立を依頼された状況を考えてみます。依頼者から「監査役っているんですか?」と聞かれたとしましょう。そういった場合、株主にうるさい人がいないかを確認し、「もしそういった株主がいる場合は監査役を設置していると報告義務ありませんよ」と解答してあげることもできますね。

試験対策としては下記紛らわしいポイント2つが要注意です。

  • 委員会会社の場合は取締役は主語になれない
  • 報告先として監査委会社の場合は監査等委員会、委員会会社の場合は監査委員(個人)

これ、いかにも試験で出されそうでしょう?

訴えの代表者

おはようございます。今日は株式会社の訴えの代表者に誰がなるのかについてまとめてみます。

訴えには外部との関係、内部者との関係の2種類があり、一般的に対外的には代表取締役が会社を代表します。これはわかりやすいですね。

では会社 vs 取締役となった場合はどうでしょうか?

一般的に取締役同士は仲間内なので本格的に敵対するのは困難であると会社法は考えているようです。そこで、監査役がある場合は監査役が会社を代表します(386.1)。監査役がなければ代表取締役になります(349.4)が、八百長になる可能性もあるため、代表者を取締役会(なければ株主総会)で定める(353, 364)という順になっています。

一般的にはこれでいいのですが、監査等委員会設置会社(以下、監査委会社)あるいは指名委員会等設置会社(以下、委員会会社)の場合はどうなるのでしょうか。


監査委会社あるいは委員会会社の場合

会社 vs 第3者の場合

会社を代表するのは選ばれた監査委員(399-7.1.2, 408.1.2)となります。監査委会社の場合、代表取締役がいるので代表取締役が会社を代表しそうですが、ここでは出てきません。いうなれば監査役がある会社と同じ扱いになります。

委員会会社の場合は代表執行役がいますが、そもそも代表執行役(執行役)は取締役会で選ばれることになっているので、取締役である監査委員が代表するのはなんとなくわかります。

会社 vs 取締役の場合

会社を代表するのは選ばれた監査委員となります。これは一般的な会社からのスライドを考えればわかりやすいです。ただし、監査委員は取締役でもあるわけで、訴えの当事者となる場合もあります。その場合はどうするのか?

第3者に対する場合と同様に、代表取締役とか執行役がはまりそうですが、そうではありません。代表者を取締役会または株主総会で定める(399-7.1.1, 408.1.1)ことになっています。第3者に対する場合にも代表しない者が内輪の揉め事に対してもなり得ないということですね。


監査委会社は実際にも増加傾向とのことです。(因みに委員会会社は制度的に失敗とみられています。そのため利用者が少なく、監査委会社という枠組みの誕生になりました。)

試験でも監査委会社は要注意です。一般的な株式会社だと差が付かないし、「株式会社に対する次の設問云々」という問題では、特に「○○委員会設置会社は除外」という文言でもない限り、監査委会社、委員会会社は含まれます。

株主総会決議に関する訴え(会社法830条)

会社法を勉強していると株主総会決議に関する訴えのところが結構混乱させられます。下記3つあります。

  1. 取消しの訴え
  2. 無効確認の訴え
  3. 不存在確認の訴え

このうち、不存在確認は決議が存在しないことが理由なのでわかりやすいですね。
問題は取消しの訴えと無効確認の訴えの違いです。


取消しの訴え(一応有効だけど、取消せる)

  1. 招集の手続きまたは決議方法が法令もしくは定款違反、または著しく不公正
  2. 決議内容が定款違反
  3. 特別の利害関係を有するものが議決権を行使したことにより著しく不当な決議がされた

無効確認の訴え

  1. 決議内容が法令違反

流れを模式化してみます。

会社
↓(①招集方法)

  • これが違法・定款違反なら取消し対象

株主総会
↓(②決議方法)

  • これが違法・定款違反なら取消し対象

決議結果(③決議の内容)

  • これが違法なら無効
  • 定款違反なら取消し対象
  • 特別の利害関係を有するものが議決権を行使したことにより著しく不当な決議がされた場合も取消し対象

つまり、決議結果が違法なのは当然無効だが、その道中がいろいろ問題があっても一応有効で、取消し対象になるにすぎないということですね。

ところで著しく不公正ってのはどういうことでしょうか。裁判所は違反事実が重大ではなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは請求棄却可能(会社法831.2)となってます。

つまり反対から読むと、

  • 上記①②の違反が重大である、あるいは
  • ③に影響している

この場合には請求棄却されない(取消し対象の土台に載る)ということになります。

実際の所、重大かどうかは判断が難しいのではないかと思われるので、決議に影響を与えているかどうかにかかってくるような気もします。著しく不公正というのは、「決議結果への影響度合いが大きい」ということになるでしょうか。

紛らわしいのですが、著しく不当な方法で招集されたり、決議されたりしたとしても、決議内容に影響する度合いが低ければ、著しく不公正ということにはならないため、取消し対象にならない。

当然ですが、著しく不当な決議となれば取消し対象になる。

なんか言葉遊びのような気もしますが、この辺り試験問題でも突いてくるところなので要注意です。