会社分割の流れ

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吸収分割

会社分割(吸収分割)にもっと詳しくなりたい方のページです

吸収分割手続きの流れ

温泉イメージ

吸収分割をやってみたいということになれば、会社法に規定されている手続きの流れに沿って物事を進めていく必要があります。大きな流れとしては次のようになります。

  1. 吸収分割契約書の作成
  2. 吸収分割契約に関する書面等の備置き(事前開示)
  3. 吸収分割契約の承認
  4. 新株予約権の提供公告及び通知
  5. 株式買取請求
  6. 新株予約権者への通知及び新株予約権買取請求
  7. 債権者異議手続
  8. 吸収分割の効力発生
  9. 登記
  10. 吸収分割に関する書面等の備置き(事後開示)
この中で3~7については順番は問いません。会社法ではどちらを先にやるのかというのは結構融通が利くように構成されています。でも実際はある程度順番があると思いますので、ここではだいたいこの順が普通だろうなという順番で記載しています。

吸収分割契約書の作成

株式会社が会社分割をするには、まず吸収分割契約を作成し、分割会社と承継会社の各代表者が、それぞれの株式会社を代表して吸収分割契約を締結することになります。

吸収分割契約において、一定の事項を定めなければなりませんが、その内容は株式会社が承継会社になる場合と、持分会社(合名、合資、合同会社の総称)が承継会社になる場合とで異なります。

株式会社が承継会社の場合
吸収分割契約において定めなければならない事項は次の通りです。(会社法758条)
1 当事会社 分割会社及び承継会社のこと
2 承継する権利義務など 承継会社が吸収分割により分割会社から承継する資産、債務、雇用契約その他の権利義務(分割会社及び承継会社の株式、分割会社の新株予約権にかかる義務を除く)に関する事項
3 分割会社または承継会社の株式 株式を承継させるときは、当該株式に関する事項
4 分割対価(任意的)
※ 分割対価は分割会社に交付される
分割対価は、承継会社の株式、社債、新株予約権、新株予約権付社債、株式等以外の財産のいずれか

株式であるときは、承継会社の資本金の額及び準備金の額を定めなければならない
5 分割会社の新株予約権(任意的) 分割会社で新株予約権を発行している場合に、承継会社が新株予約権者に対して、当該新株予約権に代わる承継会社の新株予約権を交付するときは、当該新株予約権に係る義務の承継等に関する事項

(つまり、A会社の新株予約権を引き取ってB会社の新株予約権を渡すイメージです)
6 効力発生日 吸収分割がその効力を生ずる日
7 その他、人的分割する場合はその旨 効力発生日に次に掲げる行為をするときは、その旨
  • 全部取得条項付種類株式の取得
  • 剰余金の配当
(配当財産は、承継会社の株式です。分割会社が対価として承継会社株式を貰わずに、分割会社の株主に渡す場合の規定です)
持分会社が承継会社の場合
基本的には、株式会社が承継会社の場合と同様
ただし、分割承継会社が持分会社なので新株予約権を新規に発行できるわけもなく、この項目は当てはまりません。
また社員として加入するケースがあります(任意的)ので、その場合は定めることになります。

吸収分割契約の事前開示(書面備置き)

吸収分割契約締結後、分割会社及び承継会社は、吸収分割契約の備置開始日から効力発生日後6ヶ月を経過する日までの間、吸収分割契約の内容その他法務省令で定める事項を記載し、または記録した書面または電磁的記録をその本店に備え置かなければなりません。

備置開始日の定義はいくつかある条件のうちの一番早い日です。ここでは割愛させて頂きます。


吸収分割契約の承認

承認は誰がやるのか?
分割会社及び承継会社は、効力発生日の前日までに承認を受ける必要があります。また、承継会社においては、一定の場合種類株主総会の特別決議がなければ、吸収分割の効力を生じません。
基本的な承認決議は株主総会の特別決議です。
分割会社(A会社) 分割承継会社(B会社)
契約の承認 特別決議 特別決議
ただし、これには例外が2つあります。一つは子会社と親会社の関係にある場合(そもそも決議するまでもなく親会社の意向が絶対)であり、もう一つは分割の対価が小さい場合(影響の度合いが低い)です。これについては別途説明します。
また分割承継会社が種類株式を発行する種類株式会社の場合はもう少し複雑になりますが、そういったケースはまれなので後で説明します。
持分会社の場合は次のとおりとなります 。
持分会社の場合
分割会社(A合同会社) 分割承継会社(B持分会社)
契約の承認
  • 総社員の同意(権利義務のすべてを承継させる場合)
  • 社員の過半数の同意(一部を承継させる場合)
分割会社が承継会社の社員となる場合、総社員の同意

(A会社自体がB持分会社の社員として加入するケースです)
この表では分割会社も分割承継会社も持分会社でのケースを書いていますが、勿論分割承継会社を株式会社とすることもできますし、その反対もすることが出来ます。また合名会社・合資会社は分割会社になることはできません。承継会社になることはできます。

承認は絶対必要なのか?

上記したように、株式会社の場合は通常特別決議が必要です。しかし例外が2つあります。

  • 子会社と親会社の関係にある場合(そもそも決議するまでもなく親会社の意向が絶対ですね。)
  • 分割の対価が小さい場合(大会社が町工場から一部をもらい受けることを想定してみてください。影響の度合いが低いですよね。)

最初のケースを略式分割、後の方を簡易分割と言います。分割会社、分割承継会社ともに独立して考えるため一つの表でまとめることができますが、一般の方にはパターンで表にした方が分かりやすいと思いますので、ここではパターンで説明します。

略式分割
子会社から親会社へ一部事業を持っていくパターン
分割会社(A会社) 分割承継会社(B会社)
条件 (特別支配会社)
A会社の株式の90%以上を握っている会社
契約の承認 特別決議不要(略式分割)
B会社が親会社であり、決議するまでもない
特別決議
親会社から子会社へ一部事業を持っていくパターン
分割会社(A会社) 分割承継会社(B会社)
条件 (特別支配会社)
B会社の株式の90%以上を握っている会社
契約の承認 特別決議 特別決議不要(略式分割)
A会社が親会社であり、決議するまでもない。ただし例外がある
例外 分割対価の全部または一部が承継会社の譲渡制限株式である場合であって、承継会社が公開会社でない場合はすることができない。原則通り株主総会の承認が必要となる ※
※これちょっとわかりにくいので説明します。「承継会社が公開会社ではない」というのは次のことを意味します。
「承継会社が公開会社ではない」とはどういうことか?
譲渡制限株式のみである単一株式発行会社、あるいは、2種類以上の株式を発行する会社であるが、そのすべての種類について譲渡制限がかかっている場合です。一般的な中小企業はだいたいここに当てはまります。
分かりやすく表にすると下記の通り
単一株式発行会社
(1種類の株式のみ発行)
種類株式発行会社
(2種類以上の株式発行)
A種類株式
(譲渡制限)
非公開会社 非公開会社 公開会社
B種類株式
(譲渡制限)
非公開会社 公開会社
C種類株式
(非譲渡制限)
公開会社
上の表で、右側2列は公開会社となっています。つまり一つでも譲渡制限が付いていない種類株式があれば、その会社は「公開会社」ということになります。譲渡制限がついていない株式のみを発行する会社が「非公開会社」ですね。
「対価が譲渡制限である場合」というのはどういうことか?
分割承継会社から対価を渡すにあたり、株式を渡すケースを考えてみましょう。(勿論対価として株式以外のケースもありますし、そもそも何も渡さないという場合もあります。)
この場合、新しい種類の株式を渡すことはできません。その会社が発行できる種類の中から選択することになります。外見からすると、新規株式の発行と同じだということに気付かれると思います。
上記表の右から3列目の会社を例とすると、A種類、あるいはB種類、またAB種類両方を対価として渡すことが出来ます。この場合AもBも譲渡制限ですから、対価が譲渡制限である場合に当てはまります。
また対価として譲渡制限株式を渡す場合、譲渡制限株式のみで構成される種類株主総会の特別決議が別途必要になります。
結論としてどうなるか
結論として下記のようになります。つまり種類株式発行会社で対価が譲渡制限株式となる場合に略式がOKとなります。
単一株式発行会社 種類株式発行会社
非公開 公開 非公開 公開
対価 譲渡制限 特別決議 特別決議
+種類特別
略式OK
+種類特別
非譲渡制限 略式OK 略式OK
対価なし 略式OK 略式OK 略式OK 略式OK

簡易分割
大会社が町工場へ一部事業を持っていくパターン
分割会社(A会社) 分割承継会社(B会社)
条件 承継会社に承継させる資産額が分割会社の総資産額の20%を超えない場合(つまり大して影響がないケース)
契約の承認 特別決議不要(簡易分割) 特別決議
大会社が町工場から一部事業を持ってくるパターン
分割会社(A会社) 分割承継会社(B会社)
条件 分割会社に交付する株式等、その他の財産の価額が、承継会社の純資産額の20%を超えない場合(つまり大して影響がないケース)
契約の承認 特別決議 特別決議不要(簡易分割)
ただし例外がある
例外
  1. 差損が発生する場合(会社法795条2項参照)
  2. 分割対価の全部または一部が承継会社の譲渡制限株式である場合であって、承継会社が公開会社でない場合(略式と同じ構図です)
  3. 約1/6の株式を有する株主が、花井株主の株式買取請求にかかる通知をしたとき(つまり特別決議を実際にしたら承認されないほどの議決権であるということ)

取締役の説明義務
分割会社から承継する債務額が承継する資産額を超える場合で、承継純資産額を超えて分割対価を交付するには、取締役は株主総会において、その旨を説明しなければなりません。
また承継する分割会社の資産に分割承継会社の株式が含まれる場合は、取締役は株主総会において、その株式に関する事項を説明しなければなりません。
次のケースにおいて、株主総会で取締役による説明義務が課されています
  • 上記表のa)の場合(差損が出る場合)
  • 分割会社から承継する資産に分割承継会社の株式が含まれる場合(自己株式の取得に当たるため)

会社分割をやめることの請求(H26改正)

下記どちらかの場合において、株主が不利益を受ける恐れがあるときに分割をやめることの請求が出来ます。ただし、簡易分割の場合は除く。これを「差止請求」と言います。

  • 当該分割が法令または定款違反する場合
  • 略式分割のケースで対価が財産の状況その他の事情に照らして著しく不当である場合
まとめると以下のようになります。
不利益の恐れ
恐れあり 恐れなし
原則 請求不可 請求不可
法令・定款違反(簡易分割の場合除く) 請求可 請求不可
略式分割のケースで対価が財産の状況その他の事情に照らして著しく不当である場合 請求可 請求不可

新株予約権提供公告

新株予約権を発行している分割会社が吸収分割をする場合において、当該新株予約権が消滅するときには、新株予約権提供公告が必要となります。消滅しないときには不要です。

効力発生日の1ヶ月前迄に、新株予約権者に対して下記について定款記載の方法で公告し、かつ、格別に通知しなければなりません。ただし、現に新株予約権を発行していない場合は、提供公告等は不要です。

公告(通知)内容:効力発生日までに当該株式会社に対して新株予約券を提出しなければならない旨


反対株主の株式買取請求

吸収分割をする場合において、分割会社・承継会社それぞれの反対株主はそれぞれの会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます。

これを「株式買取請求」といいます。

株主への通知又は公告
会社分割をする場合には、株主に分割手続が進行中であることを知らせるとともに、株式買取請求の機会を与えるため、効力発生日の20日前までに、株主に対して分割をする旨並びに分割の相手方会社を通知しなければなりません。
次の場合には公告をもって代えることができます。(ここ、一般の株式買取請求と異なっていますのでご注意ください)
  • 公開会社の場合
  • 株主総会の決議によって分割契約の承認を受けた場合

買取請求の可否
いくつかの例外ありますので、表にまとめます。
分割会社(A会社) 分割承継会社(B会社) 
原則 請求可 請求可
例外
(請求不可)
略式分割のケースにおけるB会社
(B会社の意向で略式分割をしているので買取請求はできない)
略式分割のケースにおけるA会社
(A会社の意向で略式分割をしているので買取請求はできない)
簡易分割の場合 簡易分割の場合

新株予約権の買取請求

新株予約権の消滅について

新株予約権を発行している株式会社が会社分割をおこなった場合、基本的にその新株予約権は消滅しません。ただし、新株予約権者に対して、分割承継会社の新株予約権を対価として与えることが出来ます。この場合、A会社の予約券はなくなり、B会社の予約券を新たに貰えるわけです。

分割承継会社
株式会社 持分会社
消滅の有無 任意的消滅 非消滅
対価 新株予約権

新株予約権の買取請求ができる場合とは
新株予約権をA会社が発行したときに、「発行時の定め」がある場合があります。例えば、合併して消滅したら承継会社の新株予約権を代わりに交付するとかいうものです。金銭を交付する、あるいは新株予約権を交付しない旨の定めをすることができますが、これらは「発行時の定め」にはあたりません。言葉遊びみたいですが、「発行時の定め」は新株予約権を交付する旨の定めのことをいいます。
基本的に、この取り決めと違う状況になった場合にのみ買取請求ができると考えてください。
表にすると次のようになります。
発行時の定め
あり なし
対価 承継会社の新株予約権 基本請求不可
ただし、条件と異なる場合は可能
請求可
(不消滅) 請求可 請求不可
分割承継会社が、持分会社の場合は新株予約権を発行することは出来ないため、分割会社の新株予約権は消滅しません。
なお、分割承継会社においては、新株予約権買取請求はできません。
新株予約権者への通知または公告
会社分割をする場合には、新株予約権者に分割手続が進行中であることを知らせるとともに、新株予約権買取請求の機会を与えるため、効力発生日の20日前までに、買取請求できる新株予約権者に対して分割をする旨並びに分割の相手方会社を通知しなければなりません。
対価が合致しているかどうか判断が難しい場合もあり、買取請求できる新株予約権者より若干ひろい範囲となっている。(会社法787条参照ください)

債権者異議手続き

株式の買い取り請求と並んで重要なのが債権者の保護手続きです。異議を述べることができる債権者がいる場合(分割会社においては、すべての債権者が異議を述べることができない場合があります)には、分割会社及び承継会社はそれぞれの債権者に対し、債権者異議手続をとらなければなりません。

異議を言えるのは誰か?
ちょっと複雑なのですが、以下のようになります。
分割会社(A会社) 分割承継会社(B会社)
原則(通常の分割の場合) 人的分割の場合
対象となる債権者 分割後、分割会社に債務の履行を請求できない債権者

(A会社に対する債権が、会社分割によってB会社に移ってしまうケースです。つまり海のものとも山のものともつかぬB会社に請求先が変わってしまうからです)

請求先が変わってしまう債権者がいない、あるいはA会社が重畳的に債務を引き受けた場合(債権の保障はしますよということ)には、異議手続きは不要です。
分割会社のすべての債権者

(事業を分割することの対価がすべてA会社の株主のところへ言ってしまうので、債権者にとっては「なんだよ!」ということになるからです)
承継会社のすべての債権者

(新たに海のものとも山のものともつかぬ事業が入り込んでくるからです)
どうやって債権者異議手続をするのか?
異議を述べることができる債権者がいる場合には、その債権者に対して所定の事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者(争ってる債権者も含む)には各別に催告をすることになります。
債権者異議手続き(原則)
  • 官報公告
  • 各別の催告(債権者一人一人に催告)
基本的には個別の催告と官報公告が必要です。ですが、個別の催告というのはかなり面倒な作業になります。そこで会社法は二重公告でお茶を濁すことを認めています。つまり、官報公告と定款に記載されている公告方法を行うことで、煩わしい個別の催告を省略することができるんですね。
債権者異議手続き(お茶を濁す)
  • 官報公告
  • 定款に記載されている公告方法
ただし、2つ注意点があります。
注意点1:そのままではお茶を濁せない場合がある
殆どの中小企業では定款に記載されている公告方法が官報で公告するとなっているはずです。この場合は二重公告でお茶を濁すことが出来ないんですよね。
定款が見当たらないという会社もたまにあるようですが、この定款記載の公告方法は登記事項になっているので、登記事項証明書を取得すると書いてありますのでご確認ください。
もしこのケースに該当しており、お茶を濁したい場合は定款の変更登記が必要となります。
注意点2:不法行為によって生じた分割会社に対する債権者がいる
当該債権者に対する各別の催告は省略することができません。
異議を述べることができる期間(1ヶ月)内に異議を述べなかったときは、その債権者は、当該会社分割について承認したものとみなされます。
一方、債権者が異議を述べたときは、当該債権者を害するおそれがないときを除いて、当該債権者に対して、弁済し、もしくは相当の担保提供が必要となります。
詐害的な吸収分割
残存債権者を害することを知って会社分割をした場合に、残存債権者が承継会社に対して、承継した財産の価額を限度として自己に対する債務の履行を請求できる規定。
現実的にはあまりないと思われますが、こういう規定があることだけは押さえてください。

吸収分割契約の事後開示(書面備置き)

分割会社及び承継会社は、効力発生日後6ヶ月を経過するまでの間、吸収分割契約の内容その他法務省令で定める事項を記載し、または記録した書面または電磁的記録をその本店に備え置かなければなりません。

ここまでが実体法上の手続きになります。登記法上の手続きは別途説明します。
→ 会社分割の登記について

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